今日で2学期が終了します。次に私がみなさんと顔を合わせるのは、年が改まっての令和6年1月9日ですので、今日は令和5年1年間を振り返っての話をします。少し長くなるかもしれませんが、しっかり聞いてください。

 まず、2,3年生のみなさんに聞きます。昨年度の3学期の始業式で、私は令和5年の抱負について話をしました。今年1年間の私の抱負がなんだったか覚えている人は手を挙げてください。

 私の今年1年の抱負は「朗らかに生きる」でした。1年前に話した「朗らか」の詳しい中身は繰り返しませんが、何事も目標を立てたら、それが達成されたかどうか振り返ることが大切です。そこで今年1年、自分は朗らかに生きられただろうか、と振り返ると、100点満点でいえば90点くらいは付けてもいいのではないか、と思いました。

 90点の大部分は、この牧中の先生方と生徒のみなさんのおかげだと思っています。1日のうちで睡眠時間を除いて、最も長い時間を過ごす牧中で自分自身が朗らかにいられたことが最も大きな理由だからです。

 先生方は、学校の教育目標である、牧中生の「確かな学力、たくましい心と身体」を育てるために一致協力して働いてくれました。また、生徒のみなさんは、私が何度も口にしている「中学生の今しかできないこと」に熱心に取り組んでくれました。1年を通じて落ち着いた態度で授業に取り組めていたし、体育祭や合唱コンクールなどの行事も盛り上げることができたし、部活動も県大会に出場するなどそれぞれに結果を残せました。いろいろな場面で「牧中生、がんばってるな、いい子たちだな」と感じることが多かったです。

 その結果、学校での大きな事故や問題が起こることなく、自然に私も朗らかに日々を過ごすことができたということです。幸せな1年を過ごさせてもらったと思います。先生方、生徒のみなさん、どうもありがとうございました。

 この1年で、私はこの牧中を去年以上に好きになることができました。

 こうやって考えてみると、人の幸せというのは、周囲の人と人のつながり、良好な関係の中でこそ感じられるものなんだな、と改めて実感します。

 そして、人の幸せが、周囲の人と人とのつながり、良好な関係の中に成り立つものとすれば、それをぶち壊す最たる行いは戦争です。

 私の抱負である「朗らか生きる」の中身には、「どんな時も明るい希望を忘れないこと」が含まれていますが、昨年2月から続くロシアとウクライナの戦争には明るい希望がなかなか見いだせませんでした。これが、先ほどの振り返りで、100点満点を付けられなかった理由です。その上、10月の初めからはパレスチナの武力組織ハマスとイスラエルの軍事衝突が続いています。ニュースを見る度に暗い気持ちになります。

 戦争のニュースに関連して、ここ数ヶ月、「人道危機」という言葉をよく耳にするようになりました。

 「人道危機」という言葉が指しているのは、戦争で病院や学校など戦闘に関係ない施設を攻撃することや、一般市民を攻撃したり人質にしたりすること、捕虜を虐待することなどの行いです。

 人道とは「人として踏み外すことが許されないルール」のことです。戦争だからといって、病人や子どもが集まる病院や学校を攻撃することなど人として許されることではありません。それが人道です。人と人がつながり合う社会で最低限守るべきルールです。これが破られた時、人と人が信じ合う心が壊されます。こうなると、人間同士がつながりを取り戻すのは並大抵なことではありません。

 人道というと言葉は大げさですが、みなさんには、人の道を踏み外す大人にはなってほしくないと思っています。だから、牧中生として生活する上で、みなさんにも中学生なりに人の道を歩くことを求めています。それは、「人の心や体を言葉や暴力で傷つけてはいけない」ということです。

 2学期中も生徒同士で、叩いた・叩かれた、悪口を言った・言われた、といったトラブルを何件か耳にしました。みなさんは、まだ中学生ですから間違いを犯すのは当たり前、そういうトラブルも仕方ない面はあるでしょう。

 しかし、そういうトラブルの度に先生方は、「人の心や体を言葉や暴力で傷つけてはいけない」という、人の道を繰り返し教えてくれているはずです。それが人と人のつながり、信頼関係を築く第一歩だからです。

 校舎4階の廊下の壁に、相田みつをさんの「道」という題名の詩が額に入って飾られています。2,3年生のみなさんは、読んだことがあるでしょうか。こんな詩です。

(省略)

 世界の人道危機に世界中の人々が声を上げなければ、人道は草に覆われるように失われてしまいます。同じように牧中生が歩くべき道も、牧中生が歩かなければ草に覆われて、見失われてしまいます。

 令和5年を振り返りながら、みなさんには「人の心や体を言葉や暴力で傷つけてはいけない」ということを改めて伝えておきたいと思い、話しました。

 そして、みなさんには、私の好きな牧中をもっと居心地のよい学校にしてもらい、みなさんにも牧中をもっと好きになってもらい、牧中生として誇りを持てる学校にしていってほしいと思います。

 来年令和6年は、世界からも牧中からも争いが絶える年になることを祈って、話を終わりにします。みなさんよいお年をお迎えください。