今日で1学期が終了します。

 1学期の振り返りや夏休みの過ごし方についての話は、昨日の学年集会で先生方が、私の言いたいことも含めて、話してくれていましたので、私からは別の話をします。

 各学年のフロアの廊下から土手の上の草むらに月見草の花が咲いているのが見えます。すっと高く伸びた茎にポツポツと咲いた黄色い小さな花です。

 作家の太宰治は、「富嶽百景」という小説の中で「富士には、月見草がよく似合う」と書きました。有名な一節です。これを書いた当時、太宰治は私生活や創作上の悩みで自信を失っていました。雄大な富士山に対峙して、月見草の小さいながらも凜として立つ揺るぎない姿を見て勇気づけられたのです。月見草の「自立する」姿が、この時の太宰にはまぶしく見えたのでしょう。

 さて、ここからが本題です。牧中では、みなさんの「自立心」を育てることを大切にしているということは、1年生には入学式で、2・3年生には今学期の始業式で話しましたし、学校生活の中で先生方からも話を聞いていると思います。

 ここからの話は、その「自立」につながる話です。今月の初めに学校だよりにも書いた「生徒がつくる学校」がテーマです。

 先週、校内を歩いていたら、廊下のあちらこちらに生徒会総務から「目安箱」の正しい活用について呼びかける掲示があるのに気がつきました。生徒会総務の役員が、できるだけ多くの牧中生の意見を活かして、自分たちの学校づくりに取り組もうとする意欲が感じられて、とてもうれしい思いがしました。呼びかけられたみなさんも、ぜひ総務役員の気持ちに応えて、前向きで学校生活の向上に役立つ意見を投稿してほしいと思います。

 話は変わりますが、少し前に、今年度から制服をなくした大阪府の中学校について書かれた新聞記事を読みました。

 その学校が制服をなくすことに決めるきっかけを作ったのは、生徒会の副会長である女子生徒の提案でした。その副会長は、一昨年2021年の秋に生徒会の他のメンバーと一緒にLGBTQについて考える集会に参加しました。

 LGBTQについて、みなさんは聞いたことがあるでしょうか?一般的に人間の性別は、女性と男性に区別されます。そして、異なる性別の相手を恋愛対象にするものとされています。しかし、これに当てはまらない人たちも存在します。同じ性の相手を恋愛対象とする同性愛だったり、女性の身体で生まれてきても心は男性、その逆もある性同一性障害だったりなど性的少数者と呼ばれる人々です。その人々を呼び示す言葉がLGBTQなのです。

 その集会に参加した副会長は、LGBTQの当事者が話す性別ごとに決められた制服を着なければならない辛さなどの思いを聞くうちに、性別ごとに男子は学ラン、女子はセーラー服と決められた自分の学校の制服についても変えていく必要があるのではないかと思うようになりました。

 そして、先生や生徒会の仲間と相談しながら、「LGBTQだけでなく、みんなが心地よく感じる制服」を目標に、制服見直しの取組を始めます。

 まず、校長先生の許可を得て、2022年の1月に制服でも私服でもどちらでも登校可能な「カジュアルウィーク」を2週間実施しました。実施後のアンケートで、生徒と保護者の6割が、制服を着なくてもよいことに賛成していることが分かり、生徒からは「もう一度実施してほしい」という声が多く寄せられたそうです。

 そこで、生徒会と先生方が協議をして、2022年度1年間を制服、私服両方で登校可能な「カジュアルイヤー」として試験期間としながら、並行して、生徒会で男女間のデザインの差が少ない制服の検討も行いました。

 2022年度、一年間の「カジュアルイヤー」の実験結果の検討や生徒会での議論、先生方との協議、生徒アンケートなどを経て、「2023年度からは私服で登校。ただし、行事の時は各自で買ったブレザーを着用」というルールが決まりました。このルールには、「全ての生徒が安心して生活できる学校の実現」と「統一感がほしいという要望」の二つを反映させたそうです。

 新聞記事は最後に今年から高校生になった副会長の言葉で締めくくられていました。こんな言葉です。

 「全員が納得する形にするのは本当に難しい。でも、そこに問題があって、困っている人がいた。解決できる立場にあったのだから、行動を起こすのが自然だと思った」

 この思いは、大人である私も見習いたいと思いました。決してスーパー中学生の言葉ではありません。みなさんと同じ公立中学校の生徒の言葉です。

 牧中でも、来年度から男女が共通したデザインを選べる標準服を導入します。先日ネクタイやリボンのデザインをみなさんに選んでもらいましたが、今後は標準服導入に合わせて服装のルールも見直していく必要があります。どんな方法になるかは未定ですが、新しいルールは、みなさんの意見も聞きながら決めていこうと思っています。

 目安箱についても同じですが、牧中の全校生徒一人ひとりが、自分たちの学校生活をよりよいものにするために自分から考え、行動してほしいと思います。新聞記事になるような特別なことをしようと思わなくてもいいのです。牧中生全員がより気持ちよく学校生活を送るために、自分の行いを正すこと。それが「生徒がつくる学校」への第一歩だと思います。

 学校だよりにも書いたとおり「生徒がつくる学校」こそが、みなさんの学校生活をより楽しく、前向きに、充実させる学校の在り方だと考えています。

 来学期以降、みなさんには、牧中は自分たち自身がつくるんだという気持ちになってくれることを期待しています。

  参考:朝日新聞朝刊(令和5年3月28日)