今年度、最初の避難訓練です。避難訓練は、毎年3回行われますが、地震や火災といった災害から自分の命を守るための大切な行事です。毎回、真剣に取り組んでほしいと思います。私からの話は、今年度も昨年度に引き続き「過去の災害に学ぶ」というテーマ中心に話をします。災害から身を守るには、日頃から過去の災害について学んでおくことが大切だと考えているからです。

 そこで、2,3年生の皆さんは、前回1月の避難訓練の時に出した宿題を覚えているでしょうか。あの時は、冷たい強風が吹きつけていたので、ほんの短い話だけでしかできませんでしたが、「福田村事件」について、調べてみてくださいという宿題を出したのでした。

 今日は改めて、その「福田村事件」から学ぶことというテーマで話をします。

 「福田村事件」というのは、今から100年前の大正12年9月1に発生した関東大震災の5日後、9月6日に千葉県の野田市で起きた殺人事件です。現在でも野田市には福田中学校という学校がありますが、その周辺地域で実際に起きた出来事です。

 関東大震災では、発生直後から「朝鮮人が暴動を起こしている」、「井戸に毒を入れた」などといった、情報が広がりました。もちろん、根拠のない、現代風に言えば「フェイクニュース」なのですが、当時は実質的に日本の植民地であった朝鮮半島の人々への差別意識などを背景にして、関東各地の町や村で、地域住民による「自警団」と呼ばれる自主的な防犯組織が生まれていました。 

 そんなふうに社会が騒然とし、人々の不安が高まる中の9月6日、香川県から薬の行商に来た男女15人が、現在の野田市にあった福田村を通りかかります。普段見慣れない顔の15人を、福田村の自警団の人々が怪しんで問いただしましたが、香川県の方言のために15人が話す内容が、福田村の人たちにはよくわかりません。標準語でも話したそうですが、イントネーションが関東とは違ったため、村人たちは15人を朝鮮人と決めつけて襲いかかり、15人中9人の命が奪われるという悲劇的な結果になりました。

 大地震などが発生した直後は、必ずと言っていいほどウソかホントかわからない、人々の不安をあおるような情報(だいたいはウソですが)が流れます。11年前の東日本大震災でも「外国人の窃盗団が活動している」「暴動が起きている」「犠牲者の指から指輪が盗まれている」といったニセ情報が流れました。今挙げた「指輪泥棒」のニセ情報は28年前の阪神・淡路大震災でも流れましたし、日本ばかりでなく117年まえにアメリカで発生したサンフランシスコ地震でも同じように流れました。

 このような根も葉もない噂、ニセ情報のことを日本語では「流言飛語」と言います。現代はネット社会ですから、SNSなどを通じて「流言飛語」は瞬く間に社会全体に広まります。今年の2月に発生したトルコの大地震でも、SNSを通じて「流言飛語」が広まっているという報道がありました。 

 「流言飛語」を信じてはいけません。世の中が騒然としている時こそ冷静になって情報の真偽を判断することが大切です。「福田村事件」のような悲劇を繰り返さないためにも、自らがその加害者にならないためにも、常日頃から情報を的確に判断し、冷静に行動するが大切であることを意識してほしいと思います。

 私からの話は以上になりますが、一つ注意があります。

 今の話の中で「朝鮮人」という言葉を使いました。この言葉は大きく「朝鮮半島にルーツを持つ人」という意味を持っていますが、過去の歴史の中で、日本の植民地であった朝鮮半島の人々を見下して差別的に呼ぶ場合に使われた言葉でもあります。今回は歴史的な話の中で敢えて使いましたが、現在では使う場合に注意が必要な言葉であり、安易に使うべきではない言葉であることは知っておいてください。